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根室でしかできないDEEPなこと

厳冬の中で続く営み。
氷下待網漁と漁師たち

#氷下待網漁 #冬 #風蓮湖

根室半島のつけ根に広がる風蓮湖。冬、氷に覆われたこの湖では、氷の下に定置網を仕掛けて魚を獲る「氷下待網漁」が行われ、コマイやチカといったこの時期ならではの魚が揚がります。そしておこぼれを狙い集まってくる、ワシやトンビなど無数の鳥たち。漁師の上空を鳥が飛び交う光景は、根室の冬の風物詩です。
今回は漁師の小向純一さん、能登由美さん、そして根室観光協会の有田茂生さんの案内のもと、氷下待網漁に同行。寒空の下で行われ続ける冬の営みをお伝えします。
※記事の内容は2023年時点の情報になります

氷上で行われる、100年続く伝統漁法

湖が凍るのは12月末~1月はじめ。まずは網を仕掛けます。仕掛け方は以下の通り。まず氷にチェーンソーで長方形の穴を開け、さらに網の長さに合わせて20m離れたところと、その中間地点にも穴を開けます。次に網の端をくくりつけた棒を長方形の穴から沈め、中間地点の穴を伝って、端の穴へとめがけて送り出していきます。端の穴から引っ張り出した網の端を氷上に刺した木の棒へ固定し、仕掛けが完成。
1月から2月中旬まで、仕掛けた網を引き揚げて漁を行います。

1月中旬のある日。晴天の中、この日も漁が行われました。
氷の上を歩いて漁場へ。長方形の木の板を外すと水がちゃぷちゃぷと波打ち、自分が凍った湖の上にいるのを実感します。

木の棒にくくりつけた網の端を緩めると、小向さんと能登さんが網を引き揚げ始めました。網が傾かないよう、息を合わせてまっすぐ引き続けます。

しばらくすると、水の中でうごめく魚が見え始めました。木の枠を置き、網をひっかけて固定します。どうやって魚を引き上げるのだろうと見ていると、虫取り網のような道具で網の中の魚をすくい始めました。リズムよく網からカゴへと魚を移していく小向さん。形も大きさもさまざまな魚がカゴを埋めていきます。

私も魚すくいを体験させてもらいました。足を広げて穴にまたがり、腰を落として魚をすくいます。意外にも重たくなく、せっせと移していましたが、前傾姿勢ですくって移す上下の動きを続けるうちに、背中と腰には疲労がたまり始めます。単純な作業ですがコツと体力が必要なようです。

約10分ほどで魚を移し終わり、5つのカゴが魚でいっぱいに。「今日は大漁ですね」と小向さん。網を戻すと、もう片側の魚が入った網を引き揚げ始めました。

「おこぼれ」を求めて空を飛び交う野鳥たち

カゴが魚でいっぱいになると始まるのが魚の選別。市場で売れる魚のみを持ち帰り、カレイやギンポ、カジカなどはこの湖の上へと残していきます。

そしてこの持ち帰らない魚を必要としている生き物がいます。風蓮湖で暮らす野鳥たちです。沿岸の木の上で待ち構えていた無数の鳥たちは、魚を撒くと一気に集まりました。

初めにやってくるのは人慣れしたカラスやトンビ。しばらくするとオジロワシが大きな羽をはためかせながら現れ、トンビに紛れて魚をさらっていきます。気づけば50羽を超える鳥が空を舞い、魚を奪い合っていました。この氷下待網漁で氷の上に残される魚は、鳥たちにとって貴重な食糧。漁のおこぼれをたくさん食べ、冬を越せるだけの栄養を蓄えるのです。

▶木の上で待ち構えるトンビたち。

▶有田さんによると、北海道にいるオオワシやオジロワシの約3割がここ風蓮湖で冬を越すと言います。

自然と人が交わるこの営みを、受け継いでいくために

現在、風蓮湖で氷下待網漁を行っている漁師は約10軒。高齢化が進み、辞める人も増えているそう。網の設置や引き上げは、1人で行うにはとても手間がかかるもの。体力的な理由が多いと言います。

そんな中、小向さんはオーナー制度や体験ツアーを通して、氷下待網漁を伝える活動を行っています。以前からネイチャーガイドの仕事をおこなっていた小向さんに能登さんが声をかけて始まりました。一部の工程を体験してもらったり、獲れた魚を焼いて食べたり、持ち帰ることができたりと、楽しみながら伝統の漁に触れることができます。
「ありのままを見てもらうように」心がけていると言う小向さん。「初めはたくさん話していたんですけど、説明するほど漁の時間も少なくなってしまって。自分たちがいつもやっているものを見てもらって、楽しんでもらいたいと思います」。

冬の漁師の営みとして、長年続けられてきた氷下待網漁。自然と人とが織りなすこの景色が受け継がれていくことを、願ってやみません。

【MEMO】
氷下待網漁見学と網引き体験
担当者TEL. 080-1973-5622 小向純一
体験料金/10,000円~

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